月々に月見る月は多けれど・・・

今年の中秋の名月、我が家の地域ではお天気が悪く、月の見えない夜になってしまった。毎年この辺りは、名月の日にはすっきりと晴れる確率がとても高く、毎年美しいまんまるお月様を愛でることができるのに・・・と朝から残念だった。

今年は無理だと朝から諦めていた私は、お月見団子を作ろうという気もあまり起こらず、何の準備もしていなかったが、夕方息子は手にススキを5,6本持って帰って来た。そういえば、朝出掛ける時から息子は何やら探していたが、これの為のハサミだったのか・・・とこの時になってその訳を知ったような状態である。

東京の駅近くにある我が家では、野に咲くススキを見つけるのはまず不可能である。立ち入り禁止の線路わきに侵入するならともかく、そうでなければ花屋さんで購入するしかない。私の実家や夫の実家なら、野焼きできるほど咲いているに対し、東京はなんと情緒のないことだろう。
しかし、私達一家はこの約20年、野のススキを欠かしたことがない。我が家のマンションの敷地わき、本当に目立たないところに、隠れるようにしてひっそりと生えるススキの大株があって、息子がまだよちよち歩きの頃から、毎年中秋の名月になると、息子と二人でここのススキを取りに来ているのだ。
「二人だけの秘密の場所にしようね」と言ってこの秘密の花園でススキを切り、小さな手に握らせてやると「ひみちゅね、ひみちゅ!」とニコニコしながらススキを地面に引きずって持ち帰った息子も、小学校高学年になると中秋の名月に一人でこの場所にやって来て、ススキを適当な長さに切り取って帰宅するようになった。そして今年も忘れることなく同じ場所で切ってきて、何も言わず、突然黙って私に差し出したのである。時の流れ、だ。

うっすらと緑がかった金色のススキはすっとしていて、非常によい状態のススキである。ススキを見る目も育ったようだ。長さもいい。よしよし。
しかし、私はススキを花瓶に生けながら内心、「こりゃ急いでお月見団子作らなきゃ・・・」とあわて始めた。息子は「きぬかづきも忘れないでよ」と言う。おお、そうだった。きぬかづきね・・・。息子の大好物だが、しかし今からスーパーに行ったところで、きぬかづきにできる里芋まだ売ってるかなあ・・・・。不安に思いながら、やっぱり昼間に買い物に行けばよかったと悔いながら買い物にでかけた。

案の定スーパーにはもう、きぬかづきにできる里芋はなかった。大きなものさえなかった。みんな、きぬかづきをしようと買っちゃったんだろうか?きぬかづきをするのに冷凍里芋というわけにはいかないし・・・と呆然としたが、「しょうがない、月も見えないんだし、今年は省略版で行こう!」と団子の粉だけ買って帰った。息子が小さかった頃は、三方に似せたものを用意して、ススキと一緒に栗やブドウ、梨、お月見団子を窓辺に供え、夕食に必ずきぬかづきを食べたが、こどもが大きくなるにつれて栗がなかったり、ブドウがなかったり・・・と毎年お供え物に欠品が生じ、そのうちそれが常習化して、ついに今年はススキと梨とお月見団子だけになってしまった。猛反省である。

息子には小さい頃から中秋の名月に必ず聞かせた言葉がある。

「月々に 月見る月は多けれど 月見る月は この月の月」

毎月毎月、三日月とか十五夜とか愛でる月はたくさんあるけれど、本当に美しい月を見るなら、この月の中秋の名月である、というような意味の、月の満ち欠けによる”月”と暦の”月”をかけた言葉遊びのうたである。”たちつてと”が上手く言えず、「ベンチに座る」を「便器に座る」と言う息子にこれを言わせると「ちゅきちゅきに ちゅきみるちゅきはちゅきだけど・・・」と、句を正しく覚えられないのと、何を言っているのか分からない発音に、夫と笑ったものだった。
未だに”たちつてと”は苦手な息子だが、さすがにもうこれは言えるよね?と言わせてみたら、当然ながら正しく発音した。しかし、「ススキの別名、知ってるよね?」と聞くと「何だっけ?」である。
「秋の七草、言って見たら思い出すんじゃない?」と振ってみると
「・・・萩、桔梗、葛、藤袴、女郎花・・・スズナ?スズシロ・・・??」と前半を秋の七草、後半は春の七草とゴッチャであった。加えて、「オバナがあるってことはメバナもあるの?」である。おいおい・・・。
「だからさ~、毎年言ってるように思うんだけどね、オバナは雄じゃなくて尾なのよ。しっぽ! ね?しっぽに見えるでしょ」
説明していて、はあ~である。なにせ毎年のことなので・・・。

語順は様々あるが、我が家では「萩、桔梗、葛、藤袴、女郎花、尾花、撫子 秋の七草」と息子には昔から教えて来た。毎年毎年、「えーっ、忘れちゃったのお?!」の繰り返しを親にさせる息子であり、おそらく来年の七草粥の時にも、来年の中秋の名月の時にも、また同じ混線をして、また同じ指摘を受けるのだろう。

アホな息子だが、平和な夜だった。この平和が長く続きますように・・・と月のない空に向かって、問題を起こさないことを祈った。

スポンサーリンク
レクタングル(大)
レクタングル(大)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

スポンサーリンク
レクタングル(大)