密閉容器の誘惑

どこのお宅でも保存容器はいくつか持っているだろう。ひとつ、またひとつと増えて、保存容器で吊戸棚がいっぱいだという家もあるかもしれない。
私がそうだった。いつぞやテレビで、家庭で不十分な管理をしている乾物食品にダニがわくという、恐ろしい、思い出したくもない番組を見て以来、それまでのように開封した乾物の袋をゴムで縛って戸棚に再び収納するということをやめ、塩や砂糖、パスタ、インスタント以外の乾物は保存容器に入れて全て冷蔵庫で管理しようと、一刻を争うように保存容器を購入したのだ。それまで保存容器と言えば母から譲り受けた古くなったタッパーウエアを数個持っていただけであったが、ダニの恐怖のあまり、閉まり具合、開け具合、使い勝手などあれこれ買っては試しを続けているうちに、狭い台所が様々なメーカーの密閉容器であふれかえったのである。

結果的には、個数が多く必要になることを考慮して、単価がそれほど高くなく、四角い形状で無駄なスペースを作らずに冷蔵庫の中で収納できるフレッシュロックという商品を使って解決を見たが、採用されなかった密閉容器を捨てるという気にはなれなかった。保存容器というのは一回購入すると本当に厄介な「魔性」のものである。蓋がついたケースとして、文房具の収納や電池の収納、ねじやビスといった工具、裁縫道具の収納などに便利で、普段はあまり物を持たず、不要だと感じた瞬間に高価な物でもバッサバッサと処分してしまう私が、1個数百円の密閉容器を前に「何かに使えるかも・・・」という考えにとらわれて、小さなサイズの物から大きなものまで利用価値を想像し、ひとつたりとも捨てることができなくなったのだ。そして、冷静に考えれば「自分はそんなこと続かないだろう・・・」というようなことも、「する、と決めればいいんだし・・・」と思いこみ、今までは料理の残りは食器にラップをかけて済ませていたものをわざわざ密閉容器に移し替えたり、普段は作り置きなどしないのに、改心したように始めて容器に入れてみたり、味噌や塩麹に肉や魚を容器で漬けてみたり始めたのだ。

しかし、そんな気持ちで始めたものなのだから当然3日坊主である。例えば、私は味噌漬けも塩麹漬けも真空パックでいつもはしているし、から揚げの下味漬けをするならポリエチレン袋の中でしてしまう。その方がたれに無駄が出ない上に短時間で味が浸み込みやすいし、袋を捨てるだけなので洗い物もなく便利だからだ。
自分なりのやり方が染みついてしまっていて、おまけに面倒くさがりな私には全くもって不可能な挑戦だった。結局、余った密閉容器は一向に「使用中」とならず、それらをしまうスペースを確保するために四苦八苦する、何とも妙な苦労を延々繰り返さなければならなかった。

それでももう少し若い頃は、使いやすい台所を探し求めること自体が楽しくて、スペースを生み出そうとする頭の体操に意欲もわいたし、衝動的に勉強机の引き出しをひっくり返して密閉容器が活かせないかと収納のやり直しをしたり、工具の収納し直しにとりかかったりして家の中をひっちゃかめっちゃかにした日もあった。が、年を重ねるうちにそれは時間の無駄でしかないと気付くようになった。保存容器がいったいいくらすると言うんだ?これらを活かそうとして使う時間は、私の人生を活かしているのか?という費用対効果が考えられる冷静な頭に戻ったのである。まるで「つきもの」が落ちたようであった。そして、こまめな人でなければ密閉容器を上手く活用できること出来ない、という一つの結論に至った。
そこに私がたどり着いたのはまだ最近のことで、考えたら当たり前のことを受け入れるのに長い年月がかかった。それは保存容器のもつ「魔性」と、台所に抱く私の夢のせいである。こんな家に住みたい、こんなインテリアにしたい・・・とモデルハウス、モデルルームを眺めても、大掛かりな夢であるから手に入れるのは簡単でないのに対して、台所は私の個室なようなものだ。保存容器の広告のように、食品が保存容器に詰め替えられて冷蔵庫の中や戸棚に整然とならぶ美しい光景は、男が秘密基地を作ったり、戦闘機や潜水艦のプラモデル作りに没頭し、操縦席に自分が座った錯覚を楽しみながら、しげしげとあらゆる角度から眺めるのと似ている。冷蔵庫や戸棚に保存容器が並ぶ光景だなんて随分小さな世界だが、私にとってはこれもひとつの世界であったから、そう簡単には諦められなかったのだ。

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しかし、私はこうして一念発起し、意味のない精神的な苦労と時間の無駄でしかない不毛な闘いはやめて密閉容器をすべて処分した。そして新たに、食器として使えるIwakiの耐熱保存容器と冷蔵庫に常備している漬物を入れる無印良品のソーダガラス密閉瓶、味噌や冷凍庫に保存する薬味のためのケユカのスーパーロック密閉容器を本当に必要な分だけ買った。粉物や乾物に関しては今は全てフレッシュロックで冷蔵庫保存だが、この容器は蓋の閉まりが緩いので、お金に余裕ができたらいつかOXOのポップコンテナ(シルバー色)に替える予定である。私がOXO好きなのは何回か書いてきたが、何せ大変高価であるので、ひとつふたつならともかく、全てをとなると二の足をふんでしまい、我が家ではお茶パック用にスナックジャーを使っている以外、購入できていない。しかし、どんなに開閉が便利なOXOにも弱みがある。ポップコンテナは冷凍はできるが電子レンジは不可なのだ。また水分の多いものには使えない。だから例えばご飯をOXOのポップコンテナに入れて冷凍するということも不可だと書かれている。特殊な蓋の構造上の問題からだろう。つまり、ポップコンテナは乾物以外は入れられない。それは説明書にも書かれている。

さて、私の密閉容器に求めた新しい基準は第一に色が透明であるか白であるいか、そして第二に熱に強いことである。
Iwakiの蓋つきラウンド型耐熱保存容器はサイズが4つあり、調理用のボウルとしても、シンプルなガラス食器としても十分使える点、入れ子にして省スペースに収納できる点が気に入って購入した。例えば、特大のものはサラダボウルやそうめんの器、デザートの器に、大サイズはグラタン、中サイズは一人用のサラダ、小サイズは酢の物やフルーツなどに使い、残ればそのまま白い蓋をして冷蔵庫へしまうことができるので、出番のない日はないくらいである。ただ、電子レンジやオーブンの熱に蓋は耐えられないので、レンジで温めるときは蓋を外してラップを使うか、スチーム温めキーで調理することになるのが唯一の残念な点だが、私の場合はメリットの方がはるかに大きく重宝している。

無印のソーダガラス密閉瓶は傾けると汁が漏れるのが残念だが、臭いは漏れない。我が家はキムチやつぼ漬、ラッキョウなど臭いの強いものを切らすことなく常備しているが、冷蔵庫の中で全く臭わないのは本当に有り難い。同じタイプで軽いプラスチックの物も他メーカーから多く出ているが、ガラス瓶の良さは熱湯消毒できる点だろう。無印良品の密閉瓶は耐熱とは書かれていないのだが、水から入れて徐々に沸騰させていくと、瓶が熱の変化に騙されるのか今までに割れたことはない。たぶん急激に熱湯に入れるとか、熱湯から急激に水で冷やすというのでなければ、これだけ厚いガラスなら大丈夫なのかな・・・と自己責任で行っている。

ケユカのスーパーロックは、四辺をお弁当の蓋のようにパチンとロックするもので、こちらは傾けても汁も臭いも漏れない。また冷凍もできるし電子レンジも蓋を外せば使えるというものである。この漏れない仕掛けは4か所をロックすることによるが、これは韓国メーカー「ロックアンドロック」から始まったもので、今では世界中にシェアを持つ4か所ロックの密閉容器ナンバーワンメーカーだ。さすがキムチの国らしく、韓国ドラマでも台所シーンが出てくると必ずと言っていいほどこの4か所ロックした密閉容器が登場する。この新しい密閉方法ははじめ、あまり見向きもされないものだったそうだが、お弁当の汁漏れがないということが噂となって、今では他のメーカーでも後に様々な名前で4か所ロックする密閉容器が作られたと聞く。スーパーロックもその一つであろう。
しかし、私がその中でケユカのスーパーロックを選んだのは、他がオレンジや青などカラーのパッキンを使うのに対し、ケユカはパッキンも真っ白で、非常にシンプルであるということだ。キムチやつぼ漬け、カレーなどはパッキンに色が付くと取れなくなるので、そうした食品の保存には色付きパッキンが向いているが、私は白や透明の容器にこだわっているので、あえて白いパッキンを使うケユカに決め、味噌やコーン、エビ、ネギ、パセリ、揚げといった時短の為に冷凍して準備している食品を入れる容器として使っている。またサイズ違いを組み合わせて高さや幅をそろえることが出来るのも、冷凍庫の中できれいに整理することができ、お気に入りとなった。

今ではいわゆる”客待ちの空車”の容器はなくなった。食器も随分と処分し、以前に比べればかなりスペースも悩みもすっきりとした。そうして得られる空いたスペースは心にも余裕を生む。
あーすっきり・・・となった。しかし、気付けばまた今も台所の陣取りゲームをしている。今度は空いたスペースに入れられるわ・・・と竹蒸籠や土鍋といったかさばるものを買ったからだ。
いたちごっこのような生活はどうしてやめられないのだろう。欲がありすぎるのか?いや、やっぱりスペースの狭さが諸悪の根源だ。そう思うことで自分の気持ちをごまかしてはいるが、現状は「捨てる物探し」の日々が続いている・・・。

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