デートの時、女の子がケーキ屋の前で「わあ」と心躍らし、キラキラした笑顔でショーケースをのぞき込んでいたら、きっと男は「かわいいなあ」って思うでしょうね。そして、彼女が「どれにしよう・・・決められないよお・・・」と悩む顔を眺めながら、「美味しい!」と小さく叫ぶ笑顔を眺めながら、自分はブラックコーヒーだけ飲んで、彼女への愛情を募らすのかもしれない。そんな可愛い女の子とちょっと大人な男の子、という少女漫画のような絵を1人夢想して「いいなあ・・・」とヨダレが垂れそうになる・・・。
私も若い頃そんなデートがしたかった。しかし、ケーキを見てくちゃくちゃに笑う可愛い女子を演じたくても全くダメだった。甘いデートの夢想にヨダレは垂れても、ケーキにヨダレは出ない。私は甘党では全くないからだ。
大学の時、女友達に甘味処へ行こうと誘われると、しぶしぶ付いて行って「ところてんサラダ」を注文した。「付き合い悪いよ」と笑われながらも、ところてんの上にレタスやキュウリ、コーンと海苔がのったサラダを、添えられたマヨネーズと辛子酢醤油をかけて食べだ。友人が黒蜜のかかった「葛切り」や「白玉あんみつ」を互いに交換して食べている時に、私は掛けすぎた酢醤油に「酸っぱ!!」とむせ、急いでマヨネーズを追加で溶いているのを爆笑された。
そんな私もプリンだけは別腹である。母がオーブンで焼いて作ってくれた昔ながらのプリン、粉からつくるハウスのインスタントプリン、デパートの上の食堂で食べた「プリン・ア・ラ・モード」など、どれも小さい頃の私には最高に美味しいデザートだった。大人になってからは、ちょっとおしゃれないろんなお店で硬めのプリンやら軟らかめのプリン、カラメルの味も様々なプリンを食すようになり、その度に「これは私好み」「これはちょっと私向きとは違う・・・」と楽しんだ。
しかし、そうしたプリンで「ここは覚えておこう」と特にメモったりしたプリンはなく、一期一会を楽しむだけで十分満足していた私だが、18年前、私は友人と初めて某メーカーの”なめらかプリン”を食べた。18年前、とはっきり言えるのは、お腹に息子がいた時だったと記憶しているからだけではない。
友人に「プリンの美味しいお店」と勧められて一緒に食べに出かけた所はプリン専門店ではなく、パスタを美味しく食べた後、デザートとしてお目当てのプリンを注文したのだのだが、これがもう甘くて濃厚で、名前の通りとろっとろ~の食感だった。悪く言えば、固まり損ねたプリンのようだったが、私は「世の中にこんなにも美味しいプリンがあるなんて・・・」と感激し、お腹に子どもがいることを理由に2つ目を注文して、ねぶるようにたいらげた。
当時、このプリンは食べられる所はまだ少なく、「あれは私のプリン人生で最高のプリンだった!」と母にも話したし、いつか食べさせてあげたいと思ったが、その時は意外なほど早くやって来て、初めて食べてから数年後、私の家のすぐ近くのデパートにその店のスイーツ、特に”なめらかプリン”をずらりと並べて販売するスイーツ単独の売り場ができたし、実家から歩いて5分もしない所には、そのレストランがオープンした。
母も近所にできたそのレストランに出かけてパスタと”なめらかプリン”を食べ、いたく感動したようだったが、私は買い物帰りにスイーツ売り場でサッと買えるようになったことで頻繁に”なめらかプリン”を食べられるようになったせいか、あれほど美味しくて「毎日食べたい」と思ったプリンにだんだん飽きてきてしまった。
とっても美味しいのだが、濃厚さがやや重たくなってきたのだ。年齢的な理由もあるかもしれないし、北海道物産展でも似たような瓶入りプリンがでてきて目新しさを失ったのも理由かもしれない。とにかく、そんなに何度も食べなくてもいいようになってしまったのである。そして、人生最高のプリンだと思ったプリンに飽きてしまったためなのか、昔から食べ慣れている、その中で最も好きな懐かしいプリンに完全に味覚が懐古していった。「やっぱりあれが一番おいしいプリンだった」と戻った先は、グリコの”プッチンプリン”である。
プリンの容器をひっくり返し、お皿にのせ、小さな突起をプッチンと折ると中のプリンが下りてくる。これも素晴らしいアイデアで”プッチンプリン”という名前の由来だ。お皿に出てきたプッチンプリンは緩めのせいで、お皿に着地するとちょっとだらしがなく、横広がりにつぶれた格好でゆらゆらとお皿の上で揺れる。出来そこないの富士山みたいにペトっとお皿にへばりつき、カラメル帽子をのせてゆらゆら・・・。ゆるキャラみたいで笑える姿でしょう?
食べるともっと笑えるからたまらない。柔らかいけれど、スプーンですくうと「ぷるるん」としているので、右側をすくえばぷるんっと倒れ、左側をすくうと反対側にぷるんと倒れる。スプーンですくう度にあっちへぷるん、こっちへぷるんと、だんだん小さくなるカラメル頭を揺らして、それでも決して最後までつぶれない。体が倒れる時には足元からひっくり返ったりする。箸が転んでもおかしい年頃だった時は、わざとぷるんぷるん揺れるようにスプーンですくってケタケタお腹を抱えて笑い、そんな私の止まらない笑いに母も「何よ?何がおかしいのよ?変な子ねえ」と言いながら笑っていた。
肝心の味も最高だ。しつこくない甘さだが、カラメルは甘い。しかし、プリンの量とちょうどいい甘さであり、ちょうどいい量のカラメルだ。あれよりカラメルが少なくても物足りないし、多いとしつこくなる。私にとって、そんな絶妙のカラメルとプリンの甘さの比率、量の比率なのだ。
プッチンプリンに似たプリンも売られているが、味は全然違う。それぞれ美味しいが、プッチンプリンは私の中でダントツ一位であり、たぶんこれを上回って好きになるプリンはもう現れないだろう。
おしゃれなお母さまたちの間で「プリンはプッチンプリン、シュークリームはコージーコーナーが一番好きなんです」と私が話すと、黙ってにっこりされるか、「わかる気がします・・・」と言われるけれど、「私もですよ」という人にはまだお目にかかったことがない。やはり私は味覚が子どものまま成長していないのだろうか。でも、美味しいものは美味しいし、好きなものは好きなんだからしょうがない。
私はプッチンプリン以外、もうどんなプリンにも見向きもしないだろう。たぶんね・・・。
ジャンボサイズもあるが、普通サイズがいい。もうちょっと食べたい・・・っていうところでやめるのが、やっぱり長く好きでいられるヒケツ。