火星の力

今月3日だっただろうか、夜に何気なく南の夜空を見上げて驚いた。真っ赤な星がふたつ、白い星がひとつ。
夏の大三角形じゃないぞ・・・。1つはサソリ座のアンタレスだ。なら、あっちのでっかい赤い星は?

そう言えば、今週はスーパーマーズだとテレビで言っていたっけ・・・と思い出した。いつの間に火星はこんなに地球に近づいて来たんだ?というくらい大きい。ギラギラしているようにさえ見えるし、赤いせいか少々不気味でもある。何年か前のスーパーマーズの頃よりも大きく見えるような・・・

それに比べて、アンタレスのなんと控えめなことよ。あれが太陽より何万倍も大きく、何万倍も明るい超巨星だなんて信じられないほどだ。
スーパーマーズと比べられたらアンタレスもやってられないだろうけど、あれでも全天で21個しかない1等星のひとつだ。アンタレスからみた火星なんてビービー弾にもならない。それほどの超巨星、サソリの心臓である。

そんなすっごい星にもかかわらず、私は目の悪さもあって「見るぞ~!」と大きく目を見開いて凝らさないと、夏のアンタレスを昔からあまり見ることができない。
同じく1等星で同じ赤い星である冬のオリオンのベテルギウスはちゃんと見えるのだから、アンタレスが見にくいのは視力のせいというより夏の水蒸気のせいだろう。老眼の目で字を読むのに似て、私にはアンタレスはボヤ~ッと見える。高度が低い時期は町の灯りも加わってさらに見えない。

地球から見たアンタレスの様子はもう末期の星である。実際は500年以上前にもう爆発し終わっているかもしれない星。
星の光が届くまでに何百年もかかり、500年前に発射されたアンタレスの光が今やっと地球に到着しているという科学的な事実は、頭ではちゃんと理解できても、私にはタコの踊り食いのように噛みにくく呑み込みにくい感覚だ。
今地球上から見るアンタレスは、つぶれ梅干しのようにブヨブヨと形をゆがませてる爆発寸前の姿だという。ベテルギウスの方も「もう駄目~!!」という爆発寸前の星だ。こちらももしかしたら既に600年以上前に爆発しているかもしれない星である。数年前のニュースで「ブヨブヨ」と危険視されていた。スーパーカミオカンデからの知らせが待ち遠しく思っている人がきっと大勢いるだろうね。

でも、面白いと思わない?よりにもよってアンタレスとベテルギウスが爆発を競っているなんて。
オリオンとサソリは天敵である。サソリに刺されて天に昇ったというオリオン、どこ刺されちゃったの?
私は子どもの頃、サソリがエイッとしっぽを使って飛び跳ねて、オリオンの右肩を刺したんだと思っていた。だって、ベテルギウスから赤い血が出ているじゃない?
サソリは心臓を爆発させてしまう。オリオンは右肩を失う。ベテルギウスの方がやや大きいと言われるが、どちらも寿命が尽きる寸前の超巨星である。星になっても、オリオンは大事な利き腕の肩、サソリはまさに命をかけて「今度こそ決着をつけようじゃないか」とどちらが先に倒れるか戦っている感じがしないだろうか。

燃えさかるような火星とアンタレスから少し離れた所で涼しげに輝く白い星は土星だった。土星がこれほどはっきり見えるのもすごいよね。
金星はともかく、木星にしても火星にしても、惑星がはっきり見えるのってちょっと感動しちゃう。
土星は肉眼で輪っかが見えるわけないのだが、目が悪くて光がにじむせいか楕円に見えて、ひとり勝手に感動は深くなる・・・。

My天体望遠鏡で初めて土星を見た時の感動は忘れられない。
ある日「今日はどれにしよっかなー」と星を探し、「よし、あれを見てやろう」とわざと暗い星に焦点を合わせたところ、それが偶然にも土星だったのである。
倍率を上げていくとだんだん横長の楕円になっていき、土星であると確信した瞬間手足がわなわなと震えた。
二階のベランダで見ていた私は、文字通り階段を転げ落ちるように下へ降りていった。そのすさまじい物音に隣の部屋の弟も出てきたくらいである。

「お、お、お、お、おかあさん・・・」
声を絞り出すとはああいうことだと思う。金縛りにあった時に声を出そうとするかのように、声をだしたくても出せなかった。
やっと「おかあさん」と言えると「お母さん、お母さん、お母さん・・・」しか言えず、「来て来て来て来て・・・」しか言えない。何なのよ・・・という母に
「どどどどどせい、どせいどせいどせい!!」
「わっかわっか、わっかあるよわっかわっか!!」
「早く来て来て!」

やっと事態がなんとなくわかったような母を見ると、私はまた階段をバタバタとつんのめりながら両手両足を使ってサルのように上り、もう一度レンズをのぞいた。やっぱりキレイなわっかがある。土星だよ・・・。
ゆっくり二階へのぼって来た母はレンズをのぞいた。
「へえ~」と言うくらいだったように思う。母のその後の反応はほとんど覚えていない。ただ私は早口にどうやって土星を見つけたか、どんな偶然であったか、そんなことを口から泡を飛ばして一気に話したのだろう。
あれ以来、生で土星を見ていなかったが、今回また土星に再会して、数十年前のその夜のことを思った。亡き母はあの日のことを覚えているだろうか。

スーパーマーズから既に約1か月近く経ち、火星はどんどん小さくなっている。
いつか火星に人が出かけていく可能性もあるように聞く。月までだってすごいのに、あの赤い星まで人間が行くことがあるなんて、人間とはどれほどのスピードで、どこまで進歩していくんだろう。
でも、人間の精神は進化しているようにはあまり思えない。オバマ大統領は先日の広島訪問のスピーチでとても心に残る言葉を残した。

「我々は科学によって海を越えてコミュニケーションをとったり、雲の上を飛んだりすることができます。病気の治療や宇宙の解明をすることができます。
しかしそうした発見が効率的に人を殺す機械にもなります・・・技術のみの発展だけでなく、同様に人間社会も発展しなければ我々を破滅させることになります。原子を分裂させた科学の革命は、人間的な進歩も求めているのです。・・・広島と長崎を核戦争の始まりとして記憶するのではなく、人類の道徳的な目覚めとしなければなりません」

真っ赤な火星を見てオバマ大統領のスピーチを思った。
火星に人がたどり着く頃には、あらゆる紛争がなくなっているべきだ、と。人間の叡智を科学だけでなく道徳にも働かせなければならないと。
我が子を見ていても思う。数学の難問に取り組む力と同じレベルで、人としての道徳レベルも育っているだろうか。
親である私は、本当に両方に目を向けて子どもを育てて来ただろうか。

いろんなことを考えさせられた6月だった。これも火星とアンタレスの不吉な赤い色のせいだったりして。

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