先日木曜日、東京は雲一つない青空が広がった。気温も風も5月のように湿度が低くさわやかで、前夜の天気予報で聞いた通り、すがすがしい1日になった。
私はその日の朝起きるや否や、昨夜から予定していた第一回目の布団の衣替えのため、布団カバーを外して家族全員の冬の掛け布団と枕をベランダに干した。
我が家のベランダはとても狭い。ボックス状になった花台が分厚くとられているので、その分狭いのだ。それにマンションの美観を損ねないようにと竿の位置がもともと低く設置されているので、干す物も、干し方も限られて、シーツなど長いものを干すときは折りたたんで横長に干すなどの工夫をしなくてはならない。おまけに、花台が深い庇を作っているので、雨が洗濯物をぬらさないというメリットもあるけれど、その庇の深さゆえに太陽の高度が高いこの季節は花台には光が直接さしても、その花台の手前に備え付けられている洗濯竿には光は当たらないという不都合が起こる。
こうしたベランダで布団を干すというのはかなり難儀な話だ。たぶんそれは我が家だけでなく、花台つきのベランダのマンションに暮らす多くの人が似た悩みを持っているだろうと想像する。
布団や洗濯物はやはりお日様にあてて干したいものだ。今は洗濯洗剤も時代を反映して「部屋干し」とか「夜干し」をCMで扱うことが多いようだが、昔の「ニュービーズ」のCMのように、芝生の庭で洗濯物を干し、風にシーツがパタパタはためいている景色はやっぱり気持ちがいい。まあ、洗濯物は乾燥機で我慢できたとしても、布団はお日様の力が必要だろう。直射日光をたくさん浴びれば、ダニもばい菌も死滅しそうだし、温かい熱と空気を吸い込んだ布団はふっかふかに膨らむ。お日様のにおいを嗅ぎながら眠る幸せは何にも代えがたい。
しかし我が家のベランダは、手すりに布団が干せるといった構造ではないし、奥行がないので布団干しが可能な物干しを買って置くこともできない。この狭いベランダで布団を干すのに一番いい場所は花台だけである。なので、この花台に布団を寝かせるようにして平干しするしか、直射日光を布団にあてて干すことはできないのである。しかしほんの少し、外に布団の切れ端でも伸びようものなら、すぐさま「花台に干さないでください!」と管理人から即刻インターホンで注意されてしまう。美観を損ねるという点と危険であるという理由だ。美観はともかく、万が一のことがあっては確かに危険であるので尤もな注意である。しかしだからと言って布団は干さなくてはならない。なので、布団を干すときは、外から見えないように、外へ落下しないように、手前のベランダ側にずり落ちそうなバランスで花台に布団を置く。やや軽い掛け布団の時には、決して落下することのないように、花台の手前の壁についている竿と竿の間に布団の端が入り込むように内側に垂らし、ハサミで留める。どちらにしても、細心の注意を払って干すしか方法がないのだ。植木鉢も4つあるので、我が家は1日に1枚しかこの特等席に寝そべることができる布団はいない。その日は掛け布団を干す日だったので、風のない午前中を選んで夫の羽毛の掛け布団をその特等席に置いた。軽いのでガッチリとハサミで竿に留める。午後は息子の掛け布団の番である。私の布団は? 日は当たらなかったけれど乾燥はした、ということで完了とするしかない・・・。
普段は気温のまだ高い3時くらいには取り込んで、押入れにしまうのだが、衣替えのために干すという場合は最後にふとん乾燥機のお世話にもなる。
我が家の布団乾燥機は象印のもので、去年新調した。これは従来のような布団袋を使わず、直接布団にカモノハシのような広く長い口を差し込むタイプのものだ。これだと布団袋を使わずに済むので便利になったが、その一方で布団袋のように布団全面を熱することができる物とは違い、吹き出し口の近辺だけしかダニを死滅させるだけの温度にならないので、4方向に布団を回してかけなおさなければならないのが難点である。しかし現時点で一番人気な布団乾燥機がこれだ。あまり布団乾燥機はメーカーも力を入れていない分野なのだろうか。
まあとにかく、この乾燥機で布団の乾燥を徹底させ、中に潜むダニを完全死滅させるために象印の布団乾燥機が出動する。
まず、畳の部屋にベランダから取り込んだ布団を2枚重ねた状態で置く。そして、布団乾燥機の熱風の出る口を2枚の布団の間に差し込んで、最後に布団圧縮袋を2枚ほど上からかけてからスイッチを入れる。このようにすると私の頭の中のイメージ画像では、畳に潜むダニも、2枚の布団の中にひそむダニも高温の熱で目を回し、ひっくり返る・・・ということになっている。
もっと高温でコテンパンにダニをやっつけようと、布団を布団圧縮袋の中に入れて乾燥機をセットしたこともあった。しかし、それでは中の熱が高くなりすぎたのか、空気の抜け道がなくなったのか、布団乾燥機がエラーになって電源が勝手に落ちてしまった。やりすぎってことだろう。なので外にも熱を発散できる道を残しながら、上に布団圧縮袋をかけて、布団に最大限熱を回すようにしている。
4方向から熱風を送るのはあまりに面倒なので私は上下2方向だけだが、90分×上下2回、こうやって畳ごと布団のダニをやっつけたら、次の布団では置く畳の面をずらして同じことを行う。そしてまた、布団も畳もコテンパンにするのだ。
その後は古いストッキングを履かせた掃除機で布団を掃除し、できる限りきれいにして圧縮袋に入れて空気を抜き、押入れの天袋へしまう。
掛け布団が終われば、最後に毛布と冬用のボアシーツだ。1日中天気がいいという何日かに振り分けて、全ての毛布類を洗濯機で洗い、ベランダで干す。その間に部屋は「ダニアース」を焚くのだ。炊き終わったら掃除機をかけ、ベランダからすっかり乾いた毛布を浴室乾燥機に入れて、もう一度念押しのように乾燥させてから、圧縮袋に入れる。こうして部屋のダニ駆除と布団の乾燥と衣替えを1週間くらいかけてしてから、「本日、梅雨入りしました」というニュースを聞けるようにしよう、というのが私のいつもの衣替えの順序である。
書いていても、読み直してみても、本当に面倒な衣替えだ。ベットならこんなに大変ではないのだろうか。みんなどうしているのか知りたいところである。業者に頼んで、布団を丸洗いしてもらい、次のシーズンまで預かってもらうというサービスもある。お金さえかければとっても楽チンに、完璧できるのが家事なのかも知れないね・・・。
以前に書いた「ミニマムな暮らし」をしている彼女は家族全員ベットの生活だが、各ベットの足元に置かれているオープンベンチの下に、その日洗濯が済んだ各自の衣類を入れておいてあげる籐の籠と布団乾燥機が置かれていた。朝起きたら布団を各自で整え、ベンチの上にmy乾燥機を上げ、口を布団の間に挟みこんでスイッチオンして乾燥させるそうだ。全員が、だ。すごいでしょう。
冬は夜になると布団乾燥機にまたスイッチを入れるため、彼女は子どもの部屋にも回って声かけするのだという。今度は布団を温めるためだ。
こういう暮らしができる人は、衣替えもきっとスムーズにいくんだろう。ぐうの音も出ないほどの主婦力。完敗である。
えっちら、おっちらではあるが、我が家の渾身の衣替えもあと一息だ。