梅雨の花というと、私はアジサイや花菖蒲がまず頭に浮かぶ。アジサイはピンクもあるけれど、やっぱりパッと思いつくのは青色かしら。花菖蒲も紫が真っ先に思い出される。
和の花は春や秋の七草のように花自体が小ぶりで地味なものもあるが、どれもイメージとしてはたおやかで、色はアジサイや花菖蒲だけでなく桔梗やリンドウ、露草、蓼とやはり青が多い気がする。
咲いている間に少しずつ色が変わるアジサイは、青いアジサイにしたければ酸性の土壌で、ピンクのアジサイにしたければアルカリの土壌へPHを調整する、と言うのは有名だが、もし世界的に見て日本には青い花が多いとしたら土壌に関係するのだろうか。
調べてみると、世界的に見て青の花が日本に特別多いかどうかはわからなかったし、土壌のPHに全ての青の花が関係するかもわからないが、日本の土壌は酸性の土壌であることは確かなようだ。例えば、アジサイで言えば、酸性土壌の日本では青が多いが、ヨーロッパなどはアルカリ土壌なので赤紫のアジサイが多いらしい。これは、土壌のPHは主に降水量で決定されるからだそうだ。雨は空気中の二酸化炭素を溶かし込んでいるので弱酸性になり、降水量の多い熱帯や温暖な地域では長期的にこの雨にさらされるために酸性になるんだとか。反対に雨の少ない乾燥気味の地域ではアルカリ土壌になるので、ヨーロッパなどではアジサイは赤紫になる、というわけだ。
蓼という植物がある。「蓼食う虫も好き好き」ということわざにもある、あの苦い蓼だ。温帯を中心にほぼ全世界に生息する植物で、生態、形態に様々あれどその数は大変多く、苦さも虫ですら食べるかは好き好きだというほど苦いものから、やや弱いものまであるらしい。
そんな蓼をことわざにした日本人は蓼など食べないかと思いきや、立派に食用にしているところは面白い。刺身のつまにすることもあるし、鮎の塩焼きに必須のタデ酢は、この蓼の葉をすりつぶして酢で溶いたものである。
そんな苦みですら価値を見いだされた蓼の同属に藍という植物もある。藍染に使われる藍で、タデ科の植物だ。明治時代の日本にやって来た外国人はその青を「ジャパンブルー」とか「広重ブルー」と呼んだそうだ。安藤広重の浮世絵の青なんだろうね。
この藍に染められた布は虫がつかず、農作業には藍染のモンペを履き、大切な着物などは藍染の風呂敷に包んでしまったらしい。蓼の成分がこんなところにまで効いて、防虫・防腐効果があるとされている。
日本人になじみの深い藍染の藍色にしても、青が強い江戸の青紫を「江戸紫」、赤が強い京の赤紫を「古代紫」と名付けた紫にしても、日本の植物が生み出す青は日本人らしさを育てる一役を担ったように感じる。寿司屋で醤油は「むらさき」と言うし、そう言えばサッカーのサムライジャパンのユニフォームも濃い青だね。
春夏秋冬、どこにでも自然の中や行事に日本らしさは見えるものだが、しっとりと雨の降り続く梅雨の風景の中にも、非常に日本的な色の世界が広がる。日本の青を作るのがもし雨だというなら、そんな側面から見ても梅雨は日本の大切な一部だろう。そんなことを想像しながら雨を眺め、花をめでるのも私の梅雨の楽しみである。