バジルの夏

気温がぐんぐん上がるGW頃になると、毎年私はバジルを育て始める。夏の間中、毎日葉を摘んでも次から次へと柔らかいきれいな緑の葉を出すバジルは、スーパーの香草売り場で買ってくるより何十倍もお得だ。私の夏の1日は、朝ベランダに出て朝食のためのバジルを摘むところから始まる。

このフレッシュバジルの香りを嗅ぐと、さあ料理しよっ!という気になってきて、トマトも育てたくなるし、ナスも、胡瓜もピーマンも育てたくなってしまう。自分で育てた野菜はたとえベランダで作ったものでもおいしい。それに、太陽の温かさがほんのり残った野菜を食べると、体に入るエネルギーの充填度が違う気がする。
しかし、夏になるとモリモリ野菜を食べたくなるのはなぜかしら。紫外線を受けだした体に必要なビタミンをいつもよりたくさん摂るために、野菜が魅力的にみえるようになる物質が頭からの指令で出てくるのだろうか。「あなたは野菜が食べたくな~る、食べたくな~る・・・」と。

バジルを育て始めたのはもう20年以上前だ。種をコップにぱらぱらと入れて水を吸わせると発芽しやすくなるというので、毎年そうしている。
ゴマより小さいバジルの種は、水に入れるとゼリー状のものに包まれて、まるでタピオカみたいになる。それらが水の中でくっつきあうので、極小タピオカが団子みたいになり、いざ植木鉢の土に撒く段になると、つまようじや割りばしでバラバラにしなくてはならない。発芽しやすくなるのはいいけれど、種のまま撒いた方がよっぽど楽。この作業は本当に必要なのだろうか、とにかく大変だ。
やっと巻き終わると、薄く土をかけて毎日ご機嫌をうかがう。数日でむくむくと種が起き上がり始め、しばらくすると、ものすごーく小さな双葉がよっこいしょと土から顔を出す。
「やあ、こんにちは!ここはどちらのオタクですか?」て感じだ。

私はこの種が起き上がって土から顔を出す頃がものすごく好きだ。もう、時を忘れてじーっと見ている。ずーっと見ている。種たちの目覚め方がさまざまで、実におかしい。
いろんなのがいる。礼儀正しい種は起き上がるやいなや、野木将軍のようにすっくと立ち、ちゃんと種の帽子を取ってご挨拶する。優等生だね。こういう子はしっかり根を張りながら、ブンッと双葉を飛行機の羽根のように開いて太陽をいち早く見つけ自立する。

一方、おっちょこちょいの種もやっぱりいるんだよね。「やあ、こんにちは・・・今何時?」といいながら、寝すぎたせいでか腰は伸びきれず、おまけに頭に帽子をのっけたまま、まさに起き抜けの体勢である。こういう子はたいてい、いつまでたっても腰が曲がったままだ。最初が肝心なんだね。となりで優等生がラジオ体操のようにパリッといい姿勢で双葉を広げているそばで、クレヨンしんちゃんみたいにクネクネと優等生に寄りかかろうとしてみたり、見ていて自立心のなさに笑えてくる。あんまりクネクネしていると移植する。一人でしっかり立ちなさい!太陽はあっちよ! と。まるで我が子を見ているようだ・・・。

おっちょこちょいを通り越して鈍感な種は、自分がまだ帽子をかぶっていることがわからないようで、双葉が大きくなっても本葉が出ても、まだ双葉の端っこにのっけているものがいる。もう何もそこから得るものがないのに、いつまでもいつまでも大事そうにくっつけて、そのせいで葉がねじれてくる。チョンチョンとつついて落としてやるが、放っておくと双葉が黄色く枯れていくまで帽子をくっつけたままでいた子もいる。我が子もこれだったらどうしよう・・・?
種と言えども性格がいろいろな、このかわいいバジルたちの成長を見るのはすごく楽しい。そして元気に大きくなって、たくさんの香りのいいバジルの葉をどんどんつけてくれる。あの小さな種からこんなに・・・というくらいだ。我が家の夏のベランダはバジルの林になり、そのうち日陰をつくるほどの森になる・・・。

こんなにバジルにお世話になっているのに、本当を言うと、私が一番育てたかった香草はシソだった。しかし、いつぞやシソを育てたら虫がびっしり・・・。その衝撃が大きすぎてトラウマになり、大好きなシソは育てられなくなってしまった。
替わって育てだしたのが偶然にも同じシソ科のバジル、というわけだ。シソ科と知ったのは後になってのこと。
バジルもシソの仲間と知って、そりゃもう虫眼鏡で見るように1枚1枚、裏も表もよーく目を凝らしたが、虫はいなかった。それからというもの、毎日虫眼鏡のように見ているが、同じ科でもバジルはなぜか虫がほとんどつかない。たまに、粉のようなものを見つけるが、そのときはすぐさま我流の退治に入る。

まずバケツに水を張り、鉢の部分をビニール袋で覆って口をぎゅっと縛り、上下ひっくり返して、土から出ている上の部分をざぶざぶと洗う。さらに手でも1枚1枚洗う。
その後新しい水を張ったバケツに栄養剤を入れて、植木鉢より10センチほど上に水がくる程度の水深になるようにして15分くらいドボンと沈める。土の中にいるかもしれない虫を窒息させるつもりで。
15分くらいしたら植木鉢を水から上げ、明るい日陰で風の通るところに発泡スチロールの棒を枕木のようにし、その上に植木鉢を置いてしっかり水切りをする。これで根っこには栄養も入ったはずだし、土の中にいた虫だって水死したはず・・・。
それからバジルを約半分くらいの高さにまで切り、スカスカにして再生を図るのだ。切ったバジルは虫がついていないか厳しーく検査して、大丈夫なもののうち、2~3本だけピッチャーにさして、あとはすぐにバジルソースとなる。

これが素人考えで私が行う、薬品を使わない対処法だ。今のところ、それで失敗して枯らしてしまったことはない。ピッチャーにさしたバジルは何日かすると根っこを出す。もし、植木鉢のバジルが次にまた怪しく時のための二世くんだ。ダメにならなくても、根っこを出したバジルは、小さなビニールポットに植えてあげて成長させる。大事な我が家の食料だからね。そうやって森になっていくのだ。

バジルはパスタやピザにフレッシュにのせるのはもちろん、朝の卵料理にも利用する。
フライパンに油を入れて、半分にカットしたプチトマトとベーコンをざっと炒め、フレッシュバジルを切らずに加える。塩コショウしたら、溶いた玉子に溶けるチーズを加えたものを加えて大きくかき混ぜたらおしまい。それを我が家は自家製のトマトソースをかけて食べる。パンにのせてオープンサンドにしてもいいし、ご飯でも美味しい。朝にバジルを摘むのはたいていこの料理のためだ。

バジルソースもレシピ本を見て作る。どっさり摘んだバジルが1年分のバジルソースになり冷凍保存される。
子どもは小さいころからトマト系や和風よりもこのバジルスパゲティが好きで、濃厚なバジルスパゲティにさらにチーズをいっぱいかけてモリモリ食べた。お肉の間にバジルソースとトマトソースと溶けるチーズを挟むフライも大好きだった。小さい頃ひどい玉子アレルギーだった子どもは、マヨネーズやタルタルソースを食べさせられなかったが、酸味のあるケチャップもあまり食べてくれなかったので、酸味を極力消した自家製のトマトソースとバジルソースは息子の体をつくるのに一役買った。

玉子アレルギーの子は多いが、体が大きくなって対応する力が備わってくるとアレルギーが治ることが多いと医者に言われた。その当時はとても信じられなかったが本当に大丈夫になった。本当にありがたい成長だった。
しかしこのバジルソース好きは未だに健在である。バジルスパゲティと言っても、「あさりとバジルのスパゲティ」のような、バジルがスープやオイルに溶けて和えてあるというものではなく、具材は何も入らない、緑鮮やかな翡翠麺のようになったシンプルなバジルスパゲティが好きだ。三つ子の魂、食までも・・・というのも格言になるのでは?

今年もバジルの種まきの季節がやってきた。食欲の夏ももうすぐ。我が家の旬は狭いベランダからもやってくる。

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