視力検査

先日、自動車免許の更新のためにメガネ屋へ行った。もともと近眼で、中学の時に一度だけ授業中の黒板が見えないからとパンダの目のようなメガネを購入したが、その後はずっとこの年まで肉眼で過ごしてきた。

当時は「メガネをかけ続けていると筋肉が努力しないからますます視力が悪くなる」という話をよく聞いた。見えないものを見よう見ようと努力すると、目の調節機能が復活するという話で、もっともらしい話だった。でも、今の時代は違うんだって。見えないならすぐメガネかけた方が目の筋肉にいいんだそうだ。時代が変わると理論も変わるというのは医学も同じなんだと思うけど、完全に真逆・・・。昔の理論は納得しやすいが、今の理論はよくわからなかった。本当なの?

母からは「メガネをかけ続けると出目金になりやすい」と脅されもした。びっくりだよ。でべそも嫌だけど出目金はもっと嫌! 本当?! といぶかしく思っていたが、ほらあの人も、その人も・・・と知り合いをこっそり見てみると、確かにそんな気もする・・・。
父からも「目が一番のチャームポイントなのに、メガネになっちゃうのか・・・」と嘆かれた。一番のチャームポイント?! そう言われたらメガネをかけることなんてできない。
そうやって私は、見えないものを「見よう見よう」と努力し、今まで数々の失礼を人様に掛けてきただろうが、自分の視力を何とかこの年まで持たせ、チャームポイントを守り抜いてきたのである。どうしても必要な「ここぞ!」という時、例えば免許を取るときは、中学の時のパンダメガネで合格を勝ち取ってきた。流行おくれでもなんでもいいよ、カッコ悪くたってその時だけのことだから別にいいもん、と。
5年前の免許更新の際は、その大事な勝負用パンダメガネを忘れてきてしまい、ダメ元で視力検査に臨んだところ、なんと初めて裸眼で0.7をクリアした。日々の努力のたまものだ。我ながらあっぱれだった。
しかし今回はまずい。本当にまずい。老眼もだんだんひどくなってきたが、近視の方が特にかなり進んでいるのがよく分かっていた。パンダメガネも効力なく、テレビの字幕は見えない。目やにがついているのかと思うくらい、目が白くかすむような感じだ。白内障かもと疑うほど見えなくなって心配していた時、免許更新の時期がやってきたのである。痛い出費だが、メガネはどうしても今回の免許更新には必要だ・・・。

メガネ屋で視力をさまざまな画像で計ってもらったところ、両目で0.3と言われた。0.3と聞いて「あーやっぱり・・・」と思ったが、「片目で0.15くらいですね」と言われて愕然とした。0.1 ? それはひど過ぎる!!
乱視も少し入っているし、老眼だし・・・と散々な結果で、遠近両用のメガネを買おうとしたが、更新時期を延ばし延ばしにしていたせいで日に余裕がなく、直ぐに購入できるという近視用レンズを購入するしかなかった。

府中運転免許場は混んでいるのがわかっているので、いつも近くの警察署へ行く。ゴールド免許の私は、お話とビデオをみて30分コースだし気楽だ。若葉のいい季節だし、お散歩気分で行ける。「いい時期に私を生んでくれてありがとうね、お母さん・・・」と空に向かって話しかけた。
暗証番号を登録し、3000円を支払い、視力検査に移る。メガネのおかげだ。ものの5秒くらいで「はい、合格です」となった。

この視力検査、今年もそうだったが、面白い光景をよく目にする。
これは随分昔のことだ。私の前に並んだ人で、それほど年ではない男性だったが、周りは「右!下!」と事務的に答えているのに、ものすごく丁寧でびっくりした。

「何が見えますか?左から順に言ってください」
「輪っかが見えます。全部輪っかです。」
「どこが開いていますか。開いている方向を言ってください」
「上に2ミリくらい隙間があります。隣は私の方向から見て真左、9時の方向に3ミリくらいかな、もうちょっとかな、さっきのより空いてます・・・」

はじめてこのタイプの視力検査をしたのだろうか。指で方向を示している人はたまに見かけるが、時計の針で表現している人は初めてだった。それに開いている隙間の幅はそれぞれ違うのかしら?違って見えるのだとしたら乱視じゃないかしら?と思ったことを覚えている。

5年前はこうだ。もうすぐ署が閉まるという時間に駆け込みでやってきた私の隣で、60代と思しき男性が視力検査の機械の前で両サイドのバーをしっかりとつかみ、がに股の中腰で踏ん張っている。その姿勢だけでも結構おかしかったのだが、おかしいのはその視力検査だ。

「右・・・じゃなくて左!」
「左ですか?」
「あ、いや上ですね!上!・・・じゃない、下か?うん、下だ、下!!」
「下じゃないですよ」
「あ、そうですね、わかってます、上です!」
「だめですね、視力が足りないですよ・・・」

そう言われると、その男性は「ちょっと待ってください。運動してみますから」といって、検査機の前でやおら屈伸運動を始めた。足を斜めに出して1234、反対も1234、アキレス腱も伸ばして1234、反対も1234。

「ねえお父さん、この時間だし、ここだからこんなに時間かけてしてもらえるけど、府中だったらすぐアウトですよ。ダメだよこれじゃ・・」
「すいません、もう一度お願いします。いつもはちゃんと見えてるんですよ、おかしいなあ・・・」

と言って、また中腰でお尻を突き出し、がに股で踏ん張る。が、また同じことの繰り返しだ。

「右・・・じゃなくて左・・・じゃなかった上・・・いや下かな・・・」
「斜め下とか斜め上もあるんですよ、見えませんか?」
「斜めもあるんですか?!ハイ見えてますよ、ちゃんと見えてます・・・」

私がお金を払ったり、自分が視力検査をしている間、その男性はずっとこんな調子で、応対している人はもちろん、後ろにいた警察官も「だめだよお父さん、これは・・・」と笑っている。しかし屈伸運動を二度行ったせいかその男性、なんと「合格」したのだ。
これには正直驚いた。警察官をガン見した。本当にこれでいいのか、警察さんよ・・・。事故したらどうするの?相手の命はどうなるの?いくらその人が例え運転業でも、生活かかっていたとしても、これはどうなのさ・・・??

5年後の今年。今年の面白い人は女性だ。やはり50代後半か60代前半くらいだろうか。
視力検査で自分の番が来る直前、「あ!」と小さな声をあげてバッグの中を探しはじめた。そうよメガネかけなきゃね・・・と思って我がことのように見ていると、その人はコンパクトを取り出した。
いや写真じゃないよ、まだ・・・そう思っていると、その女性はコンパクトの中の自分とにらめっこを始めた。顎を前へ突き出すようにして上目遣い、顎を強く引くようにして下目遣い、顔を横に向けて正面のコンパクトに向かって左流し目、反対を向いて右流し目とやっている。
何の準備体操だろう、何のおまじないだろう。よくわからなかったが、合格した様だった。
人それぞれ、自分なりのやり方があるだろうし、ジンクスもあるんだね。あらためて感じ入った新発見の年となった。

毎回とっても面白い視力検査だが、滅多にドキドキする機会のなくなった大人にとって、視力検査ひとつとっても緊張するものだ。「合格です」と言われるまでの「試験準備」も、大人にとってはなかなかの刺激になる。だからあんな突拍子もない、面白い光景が見られたりするのかも・・・と思うと、なんだか大人も可愛いよね。

大人も子どもが年を取っただけ。いつまでも緊張したり学ぶことが多いのはいいことだ、なんて感じた日になった。

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