「この筍、少しえぐいかも」と言ったら、 最近の子どもはどう反応するのだろう。うちの子どもに「 今日の筍、根元の方は少しえぐいかもよ」 と言ったところ怪訝な顔をした。
「えぐい?なんで?」
「そうよ、掘りたてじゃないもの。福岡から来た筍なんだから、 掘ってから3日くらいは経ってるでしょ・・・」と言っても、 まだ首をかしげている。
「えぐいって言うでしょ。えぐみ、だよ。知らないの?」 と重ねて聞いても、「知ってる」と答える。でも「えぐみ」 は知らないとのこと。
「 ちょっと舌がびりびりとしびれる感じのするアクの強い味のことを 「えぐみ」っていうんだよ」と教えたら、 ますますわからない顔をしてこう言った。
「
「なんで筍が残酷なの?味って何??」
えぐい味のことを「えぐみ」 と言うのだと知らなかったのではなく、根本的に「えぐい」 の意味を知らないとわかり、大ショックだった。 でも子どもは平然と言う。
「ふつうは残酷なことを「えぐい」って言うよ。 なんかちょっとひどい絵とか見たら「えぐいなあ」 って言うけどな・・・」と言うので、辞書を調べなさい! とどやしつけた。
私も広辞苑で調べてみると、「えぐい」は「蘞い」と書き、「① あくが強く、喉をいらいらと刺激する味がある。えがらっぽい」 の他に「②気が強い。また冷酷である」ともあった。② の方は古文にも使われている意味のようだが、 私は知らなかったなあ・・・。
えぐいとは① のように山菜や筍といったもののアクの味だとしか思っていなかっ たが、②の意味合いも子どもが解釈している意味とはやはり違う。
ネットで調べると「日本語俗語辞書」という中に、 子どものいう意味が載っていた。
あくが強く、喉や舌を刺激するよう味がする、 という意味から転じて「気色悪い、気味が悪い」となり、さらに「 残忍な、残虐な、きつい、厳しい」 という意味でつかわれるようになったとのこと。 現在は様々な意味で若者を中心に使われているが、 本来の意味を知っている人は減少している、と書いてあった。
「でしょー?」と子どもは言うが冗談じゃない! そんな意味で使うなんて「ウザイ」同様に私はいい気がしない。 まして本来の意味を知りつつ、 バリエーションとして若者言葉を使っているならいいが、 大人と会話にならないなんて、それこそ話にならない。
ともかく、「えぐい」「えぐみ」について体感させるしかなく、 えぐみの強そうな部分を食べさせることにした。
「あー、確かに苦いというか・・・」
良かった良かった。でも、「苦い」と「えぐい」は違うよ。「 苦い」は苦くて、「えぐい」はえぐいんだよ、 とうまく説明ができなかった。「 苦いは何となく舌で感じる感覚で、 濃すぎた緑茶とかウーロン茶とか紅茶は渋いって言って、 タンニンがその渋みなんだけど、 えぐいは何というか喉が感じるようなちょっと酸っぱいような感覚 で、アクがある例えばホウレン草とかだと、 アクはシュウ酸だって言うんだよね・・・ という風に私が自分の頭を整理するように話していると、 今度はこう来た。
「じゃあ、グレープフルーツの苦いのは「えぐみ」なの?「苦味」 なの?」
うーわからない・・・。 そういえばメロンも食べた後ちょっと苦いよなあ・・・。 大好きなウニも苦い時あるし、ゴーヤなんて苦いよなあ・・・。 にきびに昔つけたキダチアロエなんて、 どうにかしてーっというくらい苦かったしなあ・・・。
苦い味、えぐい味、 たぶん化学分析すれば答えは明確に出るのだろうが、 言葉で感覚を伝えたり区別するのは難しい。
昔、「五味子」を口にしたことがある。小さくて、 レーズンのような赤黒い色をした乾燥した果実たが、 噛み続けてどんな味がするか答えるように、 とだけ言われて口にした。 これをゆっくりとよく噛んでいくと味がどんどん変わって行く。
私は辛かったり、苦かったり、しょっぱかったり、 ラズベリーのような酸っぱさだったり、 プラムのような甘さだったりと、 順番は忘れたが確かに色が変わるように味が変わっていった。 変わった食べ物だなぁと思っていると、今のは味覚のテストで、 バランスのいい食事をとっている人はもっと細かく感じる、 と教わった。
私はとりあえず合格したが、 わからない人は二つの味しか答えられず、 食事のバランスを考える大変いいきっかけになったが、 今は子どもの味覚を育てられているかの心配と同時に「 言葉の感覚」が育てられていないのでは、と不安になってくる。 実際、昔からかなり変な言葉遣いをする子どもなので・・・。
今晩でも一緒にグレープフルーツは「えぐい」のか「苦い」のか、 調べようと思っている。
いつもは掘りたての筍を食べて、 えぐみのないことを喜んできたが、 今回買ってきた筍の根っこが少ーしだけえぐかったのをきっかけに 、「えぐい」という言葉を子どもが知らないことを親は知ったし、 えぐい味を食べさせて教えることもできたのは「怪我の功名」 ってところだろうか。
日本語は難しく、繊細だ。