たけのこのゆで方,我が家の筍御飯

昨夜、一年ぶりに筍ご飯をつくった。近くのスーパーへ行ったらたけのこが例年にないほど安く、福岡産の大きなたけのこがなんと1本498円だった。
目を疑った。毎年我が家の近所では1本1000円以上はしている。もう少し早い時期の京都産の筍などは2000円以上しているのが普通だ。今年は豊作なんだろうか・・・。
店頭には穂先が緑のがっしりした黒っぽい筍や、わりとまっすぐな筍もあったが、私は筍が片側にきゅっと軽く曲がったずんぐりふっくらしたもので、穂先に黄色っぽい葉?が少しだけ見えている、そんな筍を選び出した。6年ほど毎年通い続けたたけのこ園の「たけのこ名人」から教わった、柔らかい美味しいたけのこの選び方だ。

いつも訪れていたのは千葉県の成田空港の近く、芝山の観光たけのこ園だ。ここは斜面もあまりきつくない山の中の園で、こどもが幼稚園や小学生の頃は毎年GWはじめ頃になると、軍手や替えの靴、45Lのごみ袋、そしてカートをそれぞれが引いて、早朝から成田エクスプレスに乗ってたけのこ掘りに出かけた。我が家は車をもっていないから、どこへ行くのも公共機関を使う。

成田空港駅に着くと、海外へ出国する旅行客でいっぱいだ。みんな楽しそうに笑いながら、カートを重そうに引いてゆっくりと歩いている。あと数時間で出かける空の旅を楽しみにしている華やかな集団だ。
しかし我ら「たけのこ掘り隊」はチェックの半袖シャツにジーンズ、くるぶしまである運動靴に帽子をかぶった山登りのスタイルで、大きいけど中は空っぽの旅行用カートをコロコロ~と軽やかに転がしながら「掘ってくるぞ」と勇ましく、綺麗な成田空港駅構内を歩いてタクシー乗り場へ向かった。

たけのこ園はこのシーズン、近隣の人はもちろん、遠方からも車で訪れる人たちでにぎわう。朝、開園と同時に家族連れがやって来て、軍手やスコップ、子供用に竹で出来たシャベル代わりの道具などを現地で借してもらい、思い思いに山の中へ入っていく。その顔はみんな楽しそうだ。東京から成田エクスプレスに乗ってまでやってきた私たちも、手続きをすませカートを預かってもらうと、「負けてなるものか」と腕まくりしてガシガシ山へ入って行く。毎年来ていると慣れたもんだ。

私たちのたけのこ掘りは、家族で楽しく掘って笑い合う、という明るいものではない。夫婦2人は完全に別行動となり、姿も見えない。子どもはどちらかの親に付く。そして無言でたけのこを皆が彫りまくるのだ。竹林を渡るさわやかな風の音とホトトギスの鳴く声に癒されながら、ただひたすら掘って掘って掘りまくる。竹林に埋もれる私たちの頭上を、成田空港へ到着する寸前の車輪を出した飛行機が轟音を立てて飛んでいく。緑の空の隙間から巨大な飛行機の姿を時折腰を伸ばして唖然と眺め、ちょっと一息つくと、今晩のたけのこ御飯を楽しみに、また必死に掘る。これが私たち「たけのこ掘り隊」のスタイルだ。
たけのこが好きだから、ということはもちろんだが、成田エクスプレスに乗ってまで来たんだから・・・という意気込みも半端ない。加えて我が家のたけのこは、家族だけでなく毎年楽しみに待っている人もいるのだ。私の実家の親である。

私の実家の本家は本当に田舎で、私有の里山を持っていた。今は住宅地に変わってしまったが、昔はその山に親戚がやってきて、みんなでたけのこを掘った。山に一番近い所に住む親せきのおじさんとおばさんが、シーズンになると毎年朝掘りのたけのこを段ボールいっぱいに送ってきてくれた。それが届くと我が家も一刻を争うように、家じゅうの大鍋を全て総動員して、三口コンロで一斉にゆでるというのが春の恒例行事だった。
だいぶ前に本家が代替わりしたため、ひとつだけ残した里山で採れるたけのこも送ってもらえなくなってしまったが、旬のたけのこの美味しさを忘れられない親は、私たちが千葉まで行って掘ってくるたけのこを「無理しないで・・・」と言いながらも首を長くして待っていたのだ。

こんな風に夕方近くまで全力で掘った大量のたけのこを計量してもらって、毎年成田エクスプレスに乗ってやってくる私たちのことを喜んでくれる、優しいたけのこ名人たちとおしゃべりをして、持ってきた45Lのゴミ袋に入れたたけのこを3つのカートにパンパンに詰める。そしてタクシーを呼び、靴を履き替えて帰途につくのだ。

必死にノルマを果たして掘ったたけのこは、カートの車輪が壊れるほど重い。行きは登山スタイルで勇ましく歩いた成田空港駅構内を、帰りはずっしりとしたカートをガラガラと重く転がし、ハードな畑仕事終えた泥だらけのファーマーズとなって無言で歩く。成田エクスプレス内でもみんな上を向いて口を開け、ガーガーと寝る。山を歩き、くわを振るって掘ったたけのこは貴重な財産なのに、そのカートをその辺にほったらかしにしてでも眠りたいほどの疲労なのだ。

たけのこ掘りをした日は、帰りに近所のスーパーでかつおの刺身を買うのも約束事だ。家族をスーパーの入り口で待たせて、私はかつおと米ぬかだけ買う。そして帰宅すると夫は風呂の準備をし、こどもは靴下などを脱ぎ、私はそのままの格好でやや小さめの筍をまずは下処理をしてゆで始めるのだ。他のたけのこは食事の後、真夜中までかかって全てゆで上げるが、今はとにかく今晩のたけのこ御飯だ。
掘りたてのたけのこはゆであがりが早いので、その間にかつおを切ったり、ネギとシソを切ったりして皿に盛り、冷蔵庫で冷やしておく。吸い物の汁も作っておく。そしてたけのこがゆで上がると外の皮をはいで、姫皮は吸い物の具に、たけのこの穂先以外は全て細切りにして、お揚げの細切りと一緒にやや薄味の煮物のように煮る。その煮汁でご飯を炊くのだ。本当なら一晩ゆでたたけのこをそのまま鍋に浸しておかなくてはならないのだが、掘りたてのたけのこはえぐみがないので、その必要性はないから助かる。
炊き上がった御飯に、煮たたけのことお揚げをたっぷり混ぜ込み、お待ちかね、炊飯器いっぱいのたけのこ御飯の完成だ。

家族が風呂に入って体も頭もきれいさっぱりになったころ、今日のご褒美のようにたけのこご飯と鰹の刺身、吸い物がみんなの前にならぶ。「目に青葉、山ほととぎす、たけのこと初鰹」の晩御飯だ。労働の後のメシはうまい!

そんなハードでやりがいのある家族のたけのこ掘りは、ここ何年もしていない。子どもがクラブだ勉強だので忙しくなり、なかなかシーズンに連れていけなくなったからだ。
しかし昨夜、ゆで上がったたけのこが一本、鍋の中で浸っているのをのぞいた子どもが「おっ、今日たけのこご飯だね!いいねいいね!」と嬉しそうに口元をゆるめた。あの頃は背が小さくてコンロがのぞけなかった子どもは、今では私の身長をはるかに超えて鍋を上からのぞいているのを見、時の流れを感じる。

半分を使ってたけのこご飯をつくったが、明日は残りのたけのこで何を食べたい?と家族に聞くと
「天ぷら!」と夫も子どもも同じ答えが返ってきた。

よし!今晩はたけのこの天ぷらだ。

<たけのこのゆで方>

(1)まず、根元の土で汚れた所を切り落とす。掘りたてのたけのこなら根元もすっと包丁が入るほど柔らかい。赤紫のぶつぶつは食べられるが、硬いのとアクもややあるので好き好き。私などは勿体ないので例えば青椒肉絲とか春巻きの材料などで使うことが多い。

(2)勿体ながらずに穂先を大きく斜めに包丁で切り落とし、たけのこに縦に切れ目を入れる。皮を剥きやすくするためと、火が通りやすくするためだ。

(3)鍋に筍を入れ、たけのこに水がかぶるくらいの水と米ぬかを一握り入れ、水からゆで始める。たけのこはぷかぷか浮くので落し蓋をするといいのかもしれないが、母も私も時々筍をくるっと回して上下を入れ変えるだけ。ぬかが入っていると、沸騰したとき吹きこぼれてコンロがぬかで汚れる。沸騰してきたら、ふき上がらない程度に火を弱める。

(4)大きさや鮮度、火加減にもよるが、中サイズならだいたい1時間弱でゆで上がる。朝掘りのたけのこはえぐみがなく柔らかいので、米ぬかは少量、又は、なくてもいいくらい。米のとぎ汁でもいい。鮮度がいいとゆで上がりも早い。根元あたりに竹串をさしてすっと通ればゆで上がり。

(5)ゆで終わったたけのこは、冷めるまでゆで汁に付けておく。夜ゆでるなら一晩おいておく。ゆで汁が冷めていく間にもえぐみが抜けていくから。

(6)冷めたたけのこは、外の硬い皮をはいでいく。面白いほどどんどん剥けていくが、真っ白になるまで剥いてはいけない。柔らかい姫皮と呼ばれる部分が全部捨てられてしまうから。もう少し剥きたいな・・・というあたりで取りあえずはやめて置き、たけのこの上部と中部、下部に切り分けて、密閉容器に入れて水を張り、冷蔵庫で保管する。
我が家はカスタード色の姫皮をクルクルと巻いて、別の密閉容器で保存し、お吸い物やたけのこご飯にも使う。

※たけのこ御飯は、たけのこの中部や姫皮部分を使って我が家は作る。揚げと一緒に少し薄味に煮て、その煮汁と水を加えてご飯を炊く。炊けた御飯の上から煮た筍とお揚げをのせ、少し蒸らしてからさっくりと混ぜる。炊き込みご飯より美味しい気がする・・・。

※たけのこの天ぷらは、穂先も中部も下部も美味しいと思う。我が家は薄くたけのこを煮て、冷めたところで衣をつけて天ぷらにする。ゆでただけのたけのこで天ぷらをするより美味しい。

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