私の肩こり歴は何年だろう。確かな記憶はないが、たぶん大学院の頃だったかもしれない。
毎日大量の本を持ち歩き、時には重い重いワープロさえ持って学校の図書館へ毎日通った。修論の佳境に入る頃には化粧ポーチさえカバンに入らなくなり、教授室へ行く身だしなみとして、口紅一本と脂取り紙だけ服のポケットにつっこんで出かけたっけ。
当時大学生に大流行りのrenomaのボストンバッグをファッションの一部として買ったはずなのに、実際は本の角で革を突き破りそうなほど硬い本を詰め、お役御免になる寸前にまで酷使した二代目renomaを、せめて修了まではなんとか持たせたい一心で、アスファルトで底を引きずることのないよう軽く持ち上げて運んだことを覚えている。
図書館へ到着したら間違いなく肩や腕を自分でもんでいたに違いないが、なぜだろう、記憶にない。若かったんだね。
しかし、仕事を始めた頃にはいつの間にか湿布が手離せなくなっていた。荷物は学生の頃よりはるかに軽くなったはずなのに。
サロンパスやトクホンといった市販の湿布は昔から亡き母の必需品で、病気がちだった母のパジャマやガウンは常に湿布の匂いが染みついていた。
私にとって今でも湿布の匂いは母を連想させ、悲しさと懐かしさで胸が詰まる。
目で見ることも手で触ることもできないこの「匂い」というものほど、人間の記憶の深い深い所に刻み付けられるものはないのではないだろうか。匂いだけで親が我が子を探す野生動物の姿を見るたび涙腺がゆるんでしまうが、私たちの祖先がヒトになるまでにどれほど進化をしてきたのだとしても、やはり動物の本能の力は記憶の奥底にとどまったのだと思わずにいられない。
さて、この肩こりの湿布薬だが、それこそ私が小さい時から一枚ずつのシートになっているところは変わらない。一人で貼ることを想定してなのかもしれないが、とても一人では貼れないような、大きくてクニャクニャした湿布もあるのを見ると、必ずしもそのためだとは私には思えない。
世の中には一人で湿布が曲がらずに貼れる道具もあるが、あれはほんとに効果的なんだろうか。試したことはないが、背中の痛む位置にペタッとすることまではできたしても、きちんと背中の形状に沿わせて貼るためには、自分の手であれ他人の手であれ、椅子であれタンスであれ、何かしらを使ってこすらなけらばならないのではないかしら?
先日、二トムズのコロコロハイグレードを楽天で購入した。今まで使っていたカーペットクリーナーのシートは、粘着の部分のミシン目に沿ってちぎろうとしてもきれいに切れず、次に使うときはミシン目が探しにくいう点に多少不満があった。二トムズのコロコロハイグレードはそのミシン目にオレンジ色のラインがくっきり書かれていて、ミシン目を探す必要が無く、スパッと切れるところがウリだという紹介をみて購入に至った。
ミシン目に合わせて切るには、多少守らなくてはならない点もあるが、スパッと切れるところは看板に偽りなしである。ビリビリとかぺリペリとかではなく、スパッというかパリッというか、とにかく「ッ」が入るほどキレのいい音まですることは本当に気持ちがいい。粘着力も「強粘着」とあるように、新しい粘着面をカーペットにあてると重く転がる。取れてる実感は目だけでなく、手にかかる重さからも感じるんだね。
しばらくこのコロコロの粘着シートを見ていて、ふと思った。湿布も一枚ずつじゃなく、こんな風にロール状になっていたらどうなんだろう、と。
使いたい部分の大きさに合わせて使いたいサイズまで引き出し、ラップのように手首でひねってミシン目でカットできるような湿布。まあ、カーペットクリーナーのような質感ではない湿布をどうやってストレスなくきれいに切るかという難題はあるけど、そこを企業努力でクリアしてもらって商品化したら面白くない?
いつも全身コリコリな私などはスプレーだの、塗るタイプだのでは効果がないので、シートタイプだけを使っているが、「一枚一枚貼るなんてめんどくさい!背中の形をした湿布が欲しいわ!」としょっちゅう思っている。ロールタイプの湿布があったら取りあえず買って試したいと思うだろう。
でもまあ、今まで商品化されていないようなので、やはり難しいのだろう。でもアイデアが新しい商品を産み出すんだから、どうか製薬会社さん、頑張ってみて下さいな。
年々コリのひどくなる私は、パジャマに湿布の匂いをしみこませて、子どもの記憶に「母の匂い」として残っていくのだろうか。
それもいい。