色の持つ力

そろそろ桜が終わりを迎える。桜が過ぎればこれまた美しい新緑の頃だ。陽の光を受けて白い雲のようにふんわりと柔らかく輝いていた桜が一変、躍動感あふれる瑞々しい緑の海となって、私たちの目に優しい光を送ってくれる。

それまでやや思索の人になっていた私とは打って変わり、若葉を見上げるたび「目に青葉 山ほととぎす 初鰹…」と口ずさみたくなるくらいウキウキして、日ごろはおっくうに思っているようなことまで腕まくりして始めたくなったりする。若葉の威力はすごいもんだ。

でも、どうしてそんなに気持ちが活動的になるんだろう。色の効果もあるのかもしれないし、もうじきGWだ!というワクワク感もあるんだろうと思う。さわやかな天候もかなりの要因だろう。でも、私はこの気分の高揚はそれだけじゃなく、もっと別のところからもきているように感じるのだ。別のところってどこだろう?

色彩心理学のHPを少し調べてみた。それによると、緑はバランスと安らぎの色とされ、刺激の少ない「中間色」とある。また、見る人に安心感を与え、落ち着きと安らぎをもたらす癒しの効果があり、スクスク伸びる草木のように健康と成長をイメージさせる、ともあった。

確かにそうだよね。仕事机やこどもの勉強机に目に優しいからと緑のマットを敷くし、無機質なオフィスにも観葉植物がちょっとあるだけで柔らかさを醸し出す。デパートでショッピングを楽しみ、歩き疲れてベンチに座ると「あ~疲れた、ベンチが空いていてよかったあ…」とまずはそう思って一息つくけれど、しばらくすると人工であっても緑の観葉植物がそこにひとつあるだけで私は人の波、音と色の洪水、物質の海から、ひとり自然界に片足だけ避難したような気持ちになる。しばらく休んで、またショッピングの渦に合流しようと立ち上がるとき、疲れ切った足と頭をすっきりさせてくれたのはベンチのおかげだけではなかったと思うのだ。

では、GWのワクワク感から新緑の季節は活動的になるのだろうか。
確かに今年のGWはどうやって過ごそう…と考えるのは本当に楽しい。別にどこへ行く予定が無くても、普段は仕事や学校があって日曜日ぐらいしか揃わない家族が、それぞれ自分のしたいことをやっていてもちゃんと気配があり、食事時になると集まって来て、昼も夜も一緒に食べるっていうだけで十分幸せなGWになる。焼肉したり手巻きずしをしたり外食したり、みんなでIKEAに行って帰りに100円アイスを食べたりするだけで十分私は楽しいし、そんな予定を考えるだけでちょっとワクワクする。
でも、もしGWが2月とかにあったらどうなんだろう。まあ南国に旅行に出かけるならともかく、寒い国内でいつものように普通に過ごすとしたら?5月のGWのように私はやる気モードになるかしら。自信ない。

さわやかな天候は重要なポイントだ。絵本の「ぐりとぐらのおおそうじ」じゃないが、冬から花粉のあいだ締め切っていた窓を思いっきり開け放し、それだけで明るくなったように見える部屋をみれば、カーテンを外して洗い、クッションも冬物から春夏物に変えて、食器もさわやか系を出して、ついでに食器棚もふきふきして…と自然になってくる。やっぱり一番大きな理由はこれかな。

でも、私は他にももう一つ、これじゃないかなと思うものがある。
雨上がりの新緑の朝。私が新緑の美しさを一番感じる時だ。大人になってスキップなんて全くしなくなった私が、アスファルトにところどころできた水たまりをちょっとステップを踏んでよけるとき、なんだか気持ちは若々しく浮きたつ。いつもは入らないような洒落た店にでもふらりと入ってショッピングしたくなるような、そんなウキウキした感覚だ。冬の雨でも夏の雨でも、同じように水たまりをよけて歩いたって新緑の時のような気分に私はならないのだから、単に雨のせいでもステップのせいでもないだろう。

たぶん「におい」なんじゃないかと思う。太陽によって暖められた土がふわっと湿り気を帯びた土のにおいを発する。木の幹も、枝も同様のにおいを発するし、若葉は瑞々しいにおいを漂わせる。「青い匂い」としか語彙の乏しい私には表現できないが、雨上がりは特にそのにおいが増す。
そんな朝は目で見る周りの景色までいつもと違う。空は空気中の塵を全て落とし、地上は汚れを落とした建物がいつもと違った外観を現して、まるで視力がぐんと上がったみたいに、すべての物が鮮明に見える。

そんな浄化された空気につつまれた世界の中、このさわやかで、懐かしいようなにおいのする空気を胸いっぱいに吸い込んだ時、心も体も清められたような気持ちになる。新しい自分に生まれ変わったような気分にさえなる。それが、普段踏まないようなステップを私に踏ませ、なんでもできそうな、なんでもやってみたくなるような気持ちを呼び起こして心が浮き立つのだろうと思うのだ。

我が家の室内もところどころに観葉植物を置いている。1つを除いて全て人工だ。管理が下手なのと、なるべく室内に物を置かないようにしていることもあって、植物が大きくなったときに株分けするのも鉢を大きくすることも控えたいからだ。

白い陶器やガラスの器、つや消しステンレスの入れ物など様々な容器に、細かい葉を持つものや直線的な葉のもの、多肉植物など入れて飾っているが、言葉通り「飾っている」だけだ。たまに水道水で頭から水をかけてホコリを洗い流すのが唯一のお手入れである。風が吹いてもほとんど揺れもしない、無感情、無表情がモットーの植物たちだから、姿かたちは大変気に入っているものの、家族の一員にはどうしてもなれていない。

それに対して、家族と一緒にこの家に住み、静かに呼吸して暮らしているシュガーパインは、水をあげないと元気をなくす。あまり明るくない部屋に置いていたらぽろぽろと葉を枯らして落ちた。
おいおい、泣くなよ…と明るい部屋の窓辺に置いてやると、素直に次々と新しい芽をだして無言で喜ぶ。蔓が伸びすぎて姿かたちが乱れれば、自分ではどうにもできない本人のかわりに散髪して整えてあげなくてはならない。動き回らないだけで、言葉を介さずに表情だけで何を望んでいるかを読みとろうとする辺りは、子どもが赤ちゃんだったころの母親の心を思い出す。

水もいらないし日差しもいらない、虫もつかなければ病気にもならない人工の植物は、乾燥気味で日当たりも部屋によってまちまちのマンション暮らしには便利なことこの上ない。しかし、やっぱりそれはあくまでもインテリアの一部であって、目で見る緑の優しさや憩いはあっても、一番落ち着く自分の家の中という空間では、デパートの時とは違って人工の植物から本当の癒しの効果はあまりない。たぶんそれはモノであって、同じ生き物としての家族にはなれないからだろう。言い換えれば、どんなに面倒なことがたくさんあっても、同じ家に一緒に住んで生きている同じ生き物の家族が癒し、ということなのかもしれない。普段特にそんなことは感じていないが。

人工にしろ本物にしろ、植物の緑は平和をイメージさせる。しかしこのイメージは色が生まれながらにもつものであっても、人にとって普遍的なものとはいえないだろう。
安らぎを与える緑。しかしそう思えるのは平和な世の中だからかもしれない。太平洋戦争中、ヴェトナム戦争中、敵から身を隠すために緑と茶色の迷彩服を着て、自分の命がいつ、どの瞬間に消えるのかわからないゲリラ戦で、恐怖と緊迫感でのどの渇きも感じなくなるような精神状態におかれた兵士は、どこに敵が潜んでいるかわからないジャングルの緑を安らぎの色と思えただろうか。

情熱の色と言われる赤。心理学では活力や興奮をもたらす強いエネルギーをイメージさせ、血や肉や熟した果実の色として遠い昔から「生命に直結する」色ともいわれているそうだ。そして赤は怒りの色であり攻撃の色でもある。深紅のバラは愛と情熱のしるしとして女性は男性からもらうことを夢見るが、今なお内戦の続く国で赤とは悲しみの色であり、苦しみの色であり、憎しみの色だろう。

シックでエレガントで格調高い黒。また悲しみを表わす黒。しかしシリアから逃れるため寒風の中をゴムボートで生きるために命がけの旅をしていた難民にとって、黒はどんな色だろう。家族や友人を失い、あるいは自身が大けがを負って苦しんでいる人にとって、立ち昇る黒煙の色はどんな色だろう。町が爆撃されライフラインも途絶えた廃墟を包む夜の闇の色は、いつ降ってくるかわからない爆弾におびえ、足元の瓦礫に大けがをする恐怖の色にちがいない。

全ての国の人にとって赤は愛の色であればいいのに。
緑は癒しの色であり、やる気の出る色であり、平和の象徴の色となれる世の中がくればいいのに。
どっかの国もミサイルなんて乱発してないで、そのお金で木の一本でも植えてはどうだろう。核開発やミサイルの技術があるなら、それをエネルギー産業の活性化に活用して、木を伐採するのをやめなくちゃ。汗水流して作った作物も禿山のせいで洪水になったり、人が亡くなったり作物を流されてしまったりしないように。国民が食べ物の心配をしなくて済むように。やることは他にいくらでもあるはず。

日本も明治からデ・レーケの教えを長年受けて治山治水につとめ、そこから経済的に豊かな国になる道筋をつくった。
誰がリーダーで、どんな主義であっても、その国の民がお腹をすかせて苦しむことのない豊かな国をつくり、国民が幸せに暮らせるなら、今の時代は取って食おうとするような国はないよ、一部を除いてはね、と言ってやりたい。

色は心身に大きな影響を与える。禿山が緑ゆたかな山に戻ったら、かのリーダーも胸いっぱいさわやかな空気を吸って、頑なな心もほぐせるかもしれない。
窓を思いっきり開けて、青い匂いのするさわやかな風を通したら、よしっと腕まくりして、美しく幸せな国をめざした仕事にとりかかりたくなるかも。

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